インパクトプレスによる
電池用アルミケースの開発
(2009年度ものつくり中小企業開発支援事業)


インパクトプレスとは

- 1型1工程で深い金属加工が可能
- 金属が衝撃圧力により流体の様に変形しパンチに沿って伸びる
- 瞬間に220度ほどの熱を発し高圧力下で変形する
- 残留応力はほとんど無い
- ほぼ均一に加工硬化する
- アルミや銅など柔らかい金属しか加工できない
深絞りプレスとは


- 板材を、パンチと呼ばれる凸型とダイス(凹型)の間に挟んでプレスし、複数回に分けて深い形状を得る加工法。側壁の部分に、ダイスの外側の周囲部分から材料が流入しながら深く絞っていくので、板厚の減少をあまり伴わないのが特徴。
深い絞りの場合は10数工程にわけて行う。 - 長方体を作る場合長辺より短辺が厚くなってしまう。
- 残留応力が大きく金属疲労も大きいステンレスの場合時効割れが発生する場合がある。
(時効割れ:加工後10年ほどで突然ヒビや裂けができる)
インパクトプレスの長所
- 金型が少ない(初期投資が少なくてすみます!)
- スラグ打ち抜き型 インパクトプレス型が必用
深絞りの場合形状により、5型~15型必用になる。 - 生産速度が高く大量生産に向いている(ローコスト生産)
- (30~100/毎分):形状、大きさによる
- 部位により肉厚を変える事が出来る(底厚3mm 壁厚0.5mmなど)
- 深絞りのように短辺が厚くなることがなく、長辺短辺同じ肉厚も可能
- 残留応力がほぼ無い(溶接時の熱変形や振動による亀裂発生が少ない)
- 深絞り製ケースではケース上部ほど変形量が多いため強度が弱いがインパクトの場合ほぼ均一な加工硬化のためケース全体的に強度がある。
- 材料ロスが少ない
- インパクトプレスの場合、スラグ打ち抜き時にロスがでるが圧延メーカーでスラグ生産しているためそのまま熔解し再利用できるのでロスが少ない。インパクト後のトリミングくずがロスとなる。
- 深絞りの場合はロール板より円形に打ち抜き絞っていくので切りくず(スケルトン)のロスが大きい。スケルトンとトリミングで30~40%ほどロスとなる。
- 深い形状が作りやすい
- プレスのストロークの半分以上の深い容器形状が作れる。
当社にある300mmストロークで角形170mm(切り代含む)まで成型可能。 - 深絞りはプレスストロークの1/3程度しか絞れない(同プレスストロークの場合100mmまで)
インパクトプレスの短所
- 加工材質に制限がある。(アルミ、銅、軟鋼など柔らかくて伸びやすい材質)
- 純アルミに近い柔らかい材質(A1050、A1070、3003等)、形状によりA5052、A6061も可能。
ステンレスや炭素鋼材は加工出来ない(熱間鍛造など特殊な加工方法により可能の場合がある。) - 肉厚寸法精度が出しにくい
- このため今までは文具用マーカー軸、スプレー容器等、比較的精度要求が低い製品にしか使用されなかった。
肉厚を薄くすると精度が出にくい傾向がある。円筒形は比較的簡単に精度が出るが、長方体の長辺と短辺の比が大きいものほど難しい - →当社では金型形状や潤滑油の工夫でいままで出来なかった精度を実現
たばこの箱を半分に薄くした程度の大きさで肉厚0.5mmの場合 ±0.05mmを達成
インパクトプレスの工程
- 油付け(タンブリング)
- インパクトプレス( 深絞りはこの工程が10数工程ほど)
- 2次加工(トリミング、段付け等)
- 洗浄
- 検査梱包出荷
インパクトプレスと深絞りの比較
| インパクトプレス加工 | 深絞り加工 | |
|---|---|---|
| 金型 | 2型(インパクト型、スラグ抜き型) | 10型~(角形で縦横比が大きいと増える) |
| 肉厚 | 底厚や壁厚を任意に設定可能 長辺、短辺を同じ厚さに設定できる。 |
肉厚は母材により決定 仕上がり肉厚の設定が難しい 長辺より短辺が厚くなる。 |
| 工程数 | 絞り部分は1工程 | 絞り限界比による工程数が必要 |
| 生産速度 | 30~100/min | 10~30/min(深い物ほど遅い) |
| 加工精度 | 一般的に壁面肉厚精度が出にくい 現状0.5tで±0.05mmに高精度化 上部開口部付近は±0.03mmを達成 他外形寸法精度は±0.05mm以内 |
肉厚精度が高い (±0.05mm以内) |
| 加工硬化 | ほぼ均一になる | 不均一な場合が多い 絞り段数の多い物ほどもろくなる |
| 残留応力 | ほぼ無い | 形状により大きい場合がある 特に絞り量の大きな開口部に応力集中 |
| 材料 | スラグ(アルミ塊) | 板材(ロール材) |
| 材料ロス | 10%程 (トリミングロスのみ) |
30%~40%程 (スケルトン、トリミングロス) |
| 加工材質 | 制限あり(3003は可能) | 幅広く使用可能 |
インパクトプレスケースによるメリット
- 電池容量の拡大(ケースハイトを稼げる)
- 電池の軽量化( 深絞りより短辺の肉を薄くすることが可能)
- 電池安全性の向上(ケースの高強度化)
同じ材質で 深絞りと比較した場合、耐圧強度が高い - ハイサイクル生産によるコスト削減
- 金型数の削減によるイニシャルコストの削減
試作コストが下がる為試験しやすく電池開発の可能性が広がる - 材料歩留まりの改善によるコストの削減及び環境負荷の低減
三習工業のインパクトプレス製品のメリット
- 生産設備の自社設計、組立により、細かな仕様に対応可能
- プレス加工油に亜鉛を含まないため 電池内容液に悪影響が出ない
- 独自の高精度インパクトプレス技術のノウハウにより高強度のアルミケースを供給
- 深絞りと同等な金型寿命を実現する複合コーティング技術の開発を行っている
三習工業の取り組み
- 深絞りと同等の寸法精度の開発
- インパクトプレスでは40年以上のノウハウを有し、500種以上の形状をインパクトで生み出してきた。
世界でも類を見ない直径5mm長さ50mmの缶や直径の15倍のインパクトプレス技術を有している。
角形缶(電池用容器)では縦横比で5倍でも安定した肉厚精度を出せる技術を開発。
更に縦横比で10倍も試作予定をしている。 - 今後電気自動車に使用を予定されている大型缶試作の為、500tプレスを導入しサイズ30×120×150のアルミケースを2010年夏までに開発を行う(2009年度 ものつくり中小企業製品開発支援事業)
- 低生産コスト(高速化、自動化)の追求
- プレス回転の高速化や金型の長寿命化の実現
- 生産ラインの自社設計開発
- 金型、加工ライン、検査装置、洗浄装置 梱包装置等
社内にエンジニアリング事業部を持ち独自機械の開発を行っている。 - 材料メーカーとの共同開発(材質、形状)
- 圧延材料メーカーと技術協力関係を持ち、リチウムイオン電池に適した材料の研究、試作開発を行う
- 大学との技術協力(精度向上)
- コンピュータシミュレーションを行い金型形状の最適化を実験、アルミの伸び方向をコントロールし、最適形状を短期間に作れるよう研究中(2009年度 ものつくり中小企業製品開発支援事業)
- 環境負荷の低減
- 深絞りより材料ロスの少なさや金型個数の大幅な削減が可能となり環境負荷が小さい。
また当社ではインパクトプレスの潤滑剤として一般的に使用するステアリン酸亜鉛(金属石鹸)を使用しないため、洗浄時に亜鉛の流出が無く、また有機溶剤洗浄をしないため環境負荷の低減を実践している。
角缶開発記
簡単に出来ない角型インパクトプレス
当社は円筒缶に歴史が長いため円筒形は比較的簡単に出来るのだが、縦横比の大きな長方体缶は簡単ではなかった。ここにその苦労の経過をお見せする。

数々の失敗と試行錯誤
電池メーカーの開発者との出会いから
十数年前に当社でも携帯電話用電池のアルミケースに挑戦したことがあったが商社経由の為、細かな仕様や妥協点が解らず開発を断念した経緯がある。
ある方の紹介で開発者に直接話を伺える関係が出来て、深絞りの他インパクトでも試作を行ったが肉厚精度が出ないので断念した事を聞いた。精度を厳しく要求する部位と、ある程度妥協できる部位が解り独自で挑戦することとなる。
色々なアドバイスを頂きながら牛歩の歩みの開発が始まる。
肉厚精度の難しさの前に形にならない
初期金型を製作し試作を始めたが長方体にならずラッパの様に裂けてしまう。ここから当社 技術者の挑戦が始まった。
- 金型の形状を色々換え試作を繰り返した。
- 色々なパラメータ(変化要素)を変えて行く中で裂けが小さくなるものが見つかった。
- 金型形状の工夫で裂けが消えて皺になる
- さらなる金型形状と潤滑剤工夫で皺がほぼ無くなる
ここまでで約1年10数回の金型形状を作り、細かな修正を繰り返した。
精度向上と根気くらべ
きれいな長方体となった時点で肉厚精度は±0.08mm程度であった。ここから金型の更なる改良を繰り返す。
形状と潤滑剤の工夫等で精度が上がりかけた金型が破損してもう一度作り直すなど幾多の試練を乗り越えどうにか±0.05mmに収まる。ここまでに1年半の時間と2000万円以上の開発資金を費やした。
開発資金を確保
独自開発と意気込んでみても資本金2000万円の会社の開発資金は潤沢ではない。
ましてこれから大型リチウムイオン電池のサイズに対応するには自社のプレス機では能力不足であった。
蜘蛛の糸にすがる思いで2009年ものつくり中小企業開発支援補助を申請するが1回目の審査では採択されず、断念しかけたが最後の望みとばかりに2回目の申請を行った。
2009年の12月中旬に補助金採択の通知を受け、悲願の大型プレス導入が実現することになった。2010年2月末に500t大型プレスが搬入され、いよいよ大型のケース開発挑戦が始まった。
大学との技術協力
インパクトプレスの要はやはり金型である。
初期トライの形状で金型を20回以上作り直し、やっとの思いで精度を出したが、形状や縦横比が変わるたびにこの試行錯誤を繰り返してはお客様に迷惑をかけてしまう。
どうにかこの試作納期を短くできなかと思い大学の研究室の門をたたくこととなる。大学でもインパクトプレスの経験はほとんど無く、金型形状のシミュレーションをして頂くこととなり、過去のデータをモデリングして縦横比を変えた場合の形状を算出してもらうこととなる。現在このシミュレーションで得た形状で金型を作り実際に試験を行うところである。
縦横比 コーナーのR
インパクトプレスの場合、コーナーRを小さくすると金型(特にパンチ)の破損の危険性が増す。
たばこの箱の厚さを半分にした程の大きさのケースを作る場合、プレス加重は70t程となり、特にコーナーや角部に応力がかかる。なるべくこのRを大きくすることでパンチの耐久性が増す。
またパンチのRを大きくすることでコーナー4隅が肉厚となり缶強度が増すので都合はよい。縦横比は短辺の約5倍で精度が出ることが解っている。これを6倍、7倍になった場合に製作可能かこれからの研究テーマである。
潤滑について
インパクトプレスは通常ステアリン酸亜鉛を使用する。
しかし当社では35年前よりこの重金属を含む潤滑剤を使用しなくなった。
これは洗浄時に亜鉛が流出し公害になるからである。特に埼玉県は排水規制が厳しく亜鉛吸着剤を使用しても排水基準を満たすことが出来なく、当時はこの潤滑剤に変わる物を必死で探し当てたのである。このため通常は洗浄に有機溶剤を使用するが当社は環境負荷の少ないアルカリ洗剤と水による洗浄を行っている。
潤滑剤及び塗布方法は残念ながら公開できないが、無公害のものである。
ところでこのステアリン酸亜鉛はくせ者でプレスの圧力で細かな傷に亜鉛成分が固着し洗浄ではなかなか落とすことができない。電池に使用するとこの亜鉛が電極や電解液に悪影響を及ぼすおそれがあり電池用ケースの製作には使用しない方が良いようだ。
インパクトプレスの雑学
歴史
インパクトプレスの原点は鉄砲の薬きょうを作るために第一次世界大戦時ヨーロッパ(ドイツ)で開発されたと言われている。第二次世界大戦時には軟鉄での薬きょうをプレスで生産している。弾薬を高速で大量に安く作る為に開発された軍事技術が現在に至っている。
弾薬を軽量化する目的でアルミ系合金による薬莢の試作が行われ、この研究の過程でジュラルミンが発見された事も広く知られており、アルミ製薬莢は高価ながら現在でも使用されている。ちなみにほとんどの薬きょうは発射薬と反応しない安定した材質の黄銅をプレスして作っている。
現在はこんな製品になっている
- アルミチューブ:軟膏入れ、歯磨きチューブ(現在も関連会社で生産中)
- ペンの軸容器:油性サインペン、ホワイトボードマーカー(当社で生産中)
- スプレー缶(当社で生産中)
- アルミ電解コンデンサーのケース
- 化粧品のケース(口紅、マスカラなど)
- 消化器のケース(ほとんどは鉄製だが軽量の高級品に一部使用)
角缶開発結果

写真は小型缶(W60×D12×H100 0.5t)、大型缶(W120×D30×H140 0.8t)
開発結果(サマリー)
2009年度ものづくり中小企業製品開発事業補助事業で大型缶(W120×D30×140H 0.8t)の試作を500tプレス機を使い行いました。金型形状のコンピュータシミュレーションを大学に依頼しその形状で試作を何回か行いました。当初は金型破損の難題に直面しましたが、いくつかの施策によりほぼ目標精度(±5/100)を達成することができました。
下グラフは金型形状によりパンチ(凸型)の横方向のぶれが少なくなる事を示しています。ぶれが少なくなることで肉厚精度が向上します。

金型形状を工夫することでインパクトプレスの欠点であった精度が出にくいという大きなデメリットを無くし、深絞りに近い精度を出せることがわかりました。このノウハウをさらに追求し高精度インパクトプレスの実用化を行います。
今後は量産に向けて生産時の安定性や金型寿命の検証、金型コーティングの試験を続け電気自動車用リチウムイオン電池の安定供給とコストダウンに貢献いたします。